ウメさんの「んまい」味噌探して~木津醸造所編天然醸造が木樽の中で眠ってました!
「むらんごっつぉ」で毎日お出ししている味噌汁は、木津醸造所の味噌を使っています。口にするとほっとする、昔ながらの深い味わいで、料理長のクワさん曰く「素のままでいただくのが一番」と、基本の味噌汁にすることに決めました。その木津醸造所は湯沢のお隣、南魚沼市にあり、50年来、昔ながらの発酵手法を守り続けています。八海山をのぞむ田んぼに囲まれた、懐かしい風景の中にあるこの醸造所を、「んまや」担当の私、ウメさんこと梅澤が訪ねてみました。
ありました!!八海山をのぞむ田んぼの中です
秋らしい晴天に恵まれたとある日、井仙から車で走ること約1時間、まだ山の中へ?と思ったころに着きました。木津醸造所です。山と森と田んぼに囲まれて、とってものどかな場所。迎えてくださったのは社長と、笑顔のやわらかな大おかみさん。「おじゃまします」と、早速、中へ入れてもらうともう、味噌のいい香り。案内されるままに麹室の中へ入ると、木箱一面に敷き詰められた米麹がありました。あれれ、メガネが。「蒸している」と感じたとおり、私、ウメのトレードマークが一瞬にして曇ってしまいました。麹を発酵させる麹カビ菌は、増殖するために酸素が必要な好気性菌で、繁殖適温は25度~30度、ただし50度前後になると死滅してしまうとか。これでは温度管理も大変です。
県産大豆と米麹を使った天然醸造味噌。年代ものの巨大木樽の中に
木津醸造所の味噌の特徴は、なんといっても天然醸造であること。天然醸造とは、人工的に加温して発酵を促進させることなく、自然にまかせて味噌を発酵させる方法で、できあがるまでに半年以上かかることから、今は国産味噌全体の1割にも満たないと言われています。昔はみんな天然醸造だった、とおかみさんは言います。ずっと同じようにしているだけなんだけどね、と。でもそれがすごいことなんだということが、案内していただくうちに見えてきました。
まず材料ですが、「むらんごっつぉ」で使っているこだわりの味噌は、キモともいえる大豆に丸々とした形と色白が特徴新潟県産エンレイ大豆。そして米麹は魚沼産、塩は沖縄の天然塩を使っています。作り方はこうです。はじめに大豆を大きな圧力釜で蒸し煮にし、冷やしてからつぶします。つぶす機械はといえば、肉屋さんでひき肉を作るアレに似ていました。次に、つぶした大豆に麹と塩を合わせます。そして杉の木樽に入れて醸すのですが、この木樽が大きいのなんの・・・。私、ウメがすっぽり10人くらいは入れそう。聞けば1樽で楽々、味噌5トンを作れてしまうそうです。しかもこの木樽、今や作り手がいないので、とても貴重なんだとか。使い込まれた風合いがいいなあ、と思って聞けば、既に50年もの!! 大おかみさんが嫁いできたころに買ってきたのだそうです。そんな木樽を間近で見ることができ、しかも手で触れられるなんて、感動です。
樽口にのぼらせてもらいました。そこに広がっていたのは・・・
「どうぞ、のぼって見てください」。社長に言われて階段をのぼりました。上は、作業できるように樽の口と口をつなぐ形で床が張ってあります。材料を持ち上げる時は、さすがに階段では無理なので、昇降機を使うそうです。上がってまず目についたのが、樽に敷き詰められた丸い石。「近くの水無川(みずなしがわ)から持ってきたんです」と社長。その川石が重石として使われているのです。「うちは天然醸造なので春に仕込むんですが、夏になると発酵が進んで膨張し、重石があっても樽ギリギリまで味噌が上がってくるんですよ」。7月ごろには、ぷすんぷすんと沸騰するように泡が出るのも見られると言います。「味噌も生きているんだな」と実感しました。
そして春に仕込んだ味噌は、秋に樽から出すわけですが、おもしろいことに樽の中では3層になっているそうです。一番上が硬い味噌、中間部分がすぐにも使える味噌、下がほとんど液体に近い、やわらかな味噌。重石と重力によって、水分がどんどんと下へ下へと降りていくからだとか。なので、味噌を袋詰めにするときは、上の硬い味噌をいったん取り出してからまず中間部分を袋詰めし、そのあと下の味噌と上の味噌を合わせて、ちょうどいいなめらかさにするそうです。こうした作業も、すべて手で行っているということにも感動しました。「手間がかかる分、愛情もひとしおだろうな」と自然に思えてきました。
「『昔ながら』を続けていく」。木津さんの言葉を、しっかり伝えていきます
樽の底には大切なものが隠されています。ほんの少し溜まった「もろみ」。これが、上の味噌と下の味噌を合わせる時に欠かせません。そして残ったもろみは、木津家の野沢菜漬けにするそうです。たまり漬の野沢菜とは醤油漬のことなのかと思っていましたが、違うんですね。うまみが凝縮されておいしいですよ、と聞いていたら、思わずお腹が減ってきました。
工場を出ると、庭にぜんまいと掘りたての里芋が干してありました。目の前には田んぼ、後ろには八海山、そんな大自然の中で、一つ一つ愛情をもって味噌づくりを続けている木津さんです。
木津醸造所が糀屋として創業したのは百数十年前。そのころは「手前味噌」という言葉があるように、どこの家でも味噌を作り、それぞれの家庭の味がありました。木津醸造所は、各家庭に糀を売るのが仕事で、その後、家庭の代わりに味噌を作るようになります。それが50年ほど前のこと。「だから味噌屋より糀屋としての歴史が長いんです。その長さを振り返って思うのは、守るものはちゃんと守っていかないと、ということ。昔から続いてきたものづくりを、同じように続けていくのが私たちの仕事です」。最近ではスーパーで簡単に手に入る味噌ですが、手づくりの天然醸造味噌はちょっと違います。ぜひ、この味を受け継いでいってほしい、そのためにはまず、みなさんにこの味を味わっていただきたい、そう強く思いました。